東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1010号 決定 1979年9月20日
抗告人 全日本運輸一般労働組合東京地方本部東部地域支部こと 全日本運輸一般労働組合東部地域支部
右代表者執行委員長 小出英人
右代理人弁護士 久保田昭夫
同 清水洋二
同 徳住堅治
同 島田修一
同 大熊政一
同 須黒延佳
同 鴨田哲郎
同 宮田学
相手方 安藤運輸株式会社
右代表者代表取締役 安藤正雄
<ほか一名>
右両名代理人弁護士 松浦勇
主文
原決定の主文第二項及び第三項のうち抗告人と相手方らに関する部分を次のとおり変更する。
1 相手方らの別紙物件目録記載一の組合事務所、会議室及び食堂(以下「本件建物部分」という。)に対する占有を解いて、東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
2 執行官は、抗告人が、その下部組織である安藤運輸分会の組合活動のために本件建物部分を使用しようとするときは、右分会所属の組合員に限り、右使用することを許さなければならない。
右の場合、相手方らは、右分会所属の組合員が本件建物部分に出入するために別紙物件目録記載二の構内広場を通行することを妨げてはならない。
3 執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。
4 抗告人のその余の申請を却下する。
5 申請費用は原審及び当審を通じてこれを二分し、その一を抗告人の負担とし、その余を相手方らの負担とする。
理由
本件抗告の趣旨は、「原決定の主文第二項及び第三項の抗告人と相手方らに関する部分のうち抗告人敗訴の部分を取消す。相手方らが自らあるいは国士会総本部、黎明塾等の第三者をしてなしている本件建物部分及び別紙物件目録記載二の構内広場(以下「本件構内広場」という。)に対する占有を解いて、東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。執行官は、抗告人が組合活動のために本件建物部分を使用することを許さなければならない。執行官は、相手方らが本件構内広場を使用すること及び抗告人が組合活動のために本件構内広場を使用することを許さなければならない。執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。申請費用は第一、第二審とも相手方らの負担とする。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は別紙記載のとおりである。
そこで判断するに、記録によれば一応次の事実を認めることができる。すなわち、
(一) 抗告人は、トラック運輸産業及び関連産業に従事する労働者によって組織された総評運輸一般労働組合の下部組織であり、東京都江東区、江戸川区、墨田区、千葉県及び茨城県の運輸一般組合員により組織された労働組合である。
抗告人の下部組織として安藤運輸分会(以下「分会」という。)が組織されたが、分会は、相手方安藤運輸株式会社(以下「安藤運輸」という。)の従業員によって組織された法人格を有しない労働組合である。
相手方安藤運輸は、鋼材、鉄骨のトラック運送を業としていたものであるが、昭和五三年三月不渡り手形を出して倒産した。また、相手方安藤運送株式会社(以下「安藤運送」という。)は、陸上小運搬業を目的とするものであるが、別紙物件目録記載一の各建物及び同二の土地を所有し、これを相手方安藤運輸に賃貸していた。
(二) 分会は、昭和五〇年五月九日結成されたが、同年八月ころから本件建物部分中の組合事務所を分会又は抗告人の組合活動のために使用するようになった。右組合事務所は和室の六畳間で、もと相手方安藤運輸の従業員の居室として使用されていたものであるが、居住者が転出して空室となったので、分会においてこれを使用するようになったものである。また、本件建物部分中の会議室は右と同様に和室の六畳間で、もと相手方安藤運輸の従業員の居室として使用されていたが、居住者の転出後は従業員の更衣室・休憩室として利用されていたところ、次第にその利用者も少なくなって空室となったので、分会においてこれを分会又は抗告人の組合活動のために使用するようになったものである。そして、本件建物部分中の食堂は、相手方安藤運輸の従業員寄宿舎の一階にあり、従業員に対する炊事・給食のために使用されていたところ、分会が分会結成後右食堂に集まる従業員に対し組合加入の勧誘をするようになったこと等の事情から、相手方安藤運輸において昭和五〇年七月右食堂における炊事・給食を中止するに至ったので、その後は専ら分会において右食堂を使用するようになったものである。
(三) 分会は、組合事務所に机、椅子、金庫付ロッカー、謄写版、裁断機、複写機、タイプライター等を備え付け、同所において組合活動のための各種会議の議案書、資料、機関紙、ビラ等を作製していたほか、分会の三役会議、執行委員会等を開催していたものであり、その出入口には施錠をしていた。また、分会は、対外的に分会の所在地を右組合事務所の所在地である東京都江東区北砂一丁目三番五〇号と表示していた。
分会は、会議室に座卓、こたつ、テレビ、冷蔵庫等を置き、同所においては分会集会、抗告人の執行委員会、抗告人の分会代表者会議、抗告人のブロック幹事会、安藤運輸再建対策会議(相手方安藤運輸が倒産した後に結成されたもの)、他社における分会結成準備のための学習会等が開催されていた。
食堂には相手方安藤運輸が設置した炊事場、テーブルが残されていたが、同相手方が右食堂における炊事・給食を中止した後、分会は、プロパンガス、冷蔵庫等を設置し、食器類を整備して、寄宿舎に居住する分会員の食事、分会又は抗告人の懇親会等のためにこれを使用するとともに、食堂内に掲示板、連絡日誌等を備え付けて分会員間、又は分会と抗告人等関係者との間の連絡を図り、時には食堂において分会の集会を開催することもあった。食堂はもともとすべての従業員に開放されていたのであるが、同相手方が炊事・給食を中止した後は、分会員以外の従業員は右食堂に出入りしなくなった。
(四) 本件構内広場は、本来相手方安藤運輸の運送事業のために使用されていたのであるが、分会は、結成以来相手方安藤運輸の営業に支障を及ぼさない限度においてしばしば本件構内広場において分会集会を開催し、抗告人も、本件構内広場において抗告人主催の各種集会を開催してきた。
(五) 分会の構成員は、昭和五三年七月六日当時一二名であったが、相手方安藤運輸は、右分会構成員一二名に対し同日付をもって解雇する旨の意思表示をなし、右構成員一二名は、右解雇の効力を争って、同年八月四日東京地方裁判所に対し地位保全等の仮処分を申請し(同庁同年(ヨ)第二三二〇号事件)、係争中である。
相手方安藤運送は、相手方安藤運輸との間の賃貸借契約が終了したとして、同相手方から前記土地建物の返還を受け、昭和五三年九月から昭和五四年四月にかけて申立外熊倉勇ほか数名との間に本件構内広場中の各一部につき月極自動車駐車契約を結び、これを駐車場として使用するようになったが、更に、相手方安藤運送は、昭和五四年七月二七日申立外原田泰壽との間に、本件建物部分を含む同相手方所有の前記建物の一部につき後記国士会城東支部及び黎明塾城東支部の事務所兼宿泊に使用することを目的として賃貸借契約を結び、これを賃貸した。
そして、政治団体国士会城東支部及び政治団体黎明塾城東支部に所属する多数の者が、相手方安藤運送・原田泰壽間の右賃貸借契約によるとして、同月二八日相手方安藤運送所有の右土地及び建物に入り込み、分会が使用していた組合事務所及び会議室から分会所有の物品をすべて搬出し、食堂から分会所有の掲示板等を搬出して、本件建物部分に対する分会の占有を実力をもって排除したうえ、分会が本件構内広場を使用できないようにした。
右の事実に基づいて考えるに、抗告人は、占有回収の訴えを本案訴訟として本件仮処分を申請するに及んだのであるが、まず、分会の前記組合事務所、会議室及び食堂に対する占有使用状況は、分会においてこれを現実に支配し、かつ、分会ひいては抗告人の組合活動のためにする意思をもってこれを支配していたものと見ることができるから、分会は本件建物部分をすべて占有していたものというべきである。次に、分会は、抗告人の下部組織であって、その一構成分子にすぎないのであるから、分会の本件建物部分に対する占有は抗告人の一構成分子による占有となり、この点に前示占有使用の状況を併せ考えると、抗告人自身においてこれを占有していたものと同視すべきものというべきである。しかし、分会の本件構内広場に対する使用状況は、分会及び抗告人において多数回にわたってこれを使用していたとしても、それは分会及び抗告人において集会等の都度、関係組合員等を本件構内広場の一隅に集めて、その集会等の目的に限って使用していたものにすぎないのであるから、分会又は抗告人が本件構内広場を現実に支配していたと見るのは相当でない。他方、国士会城東支部及び黎明塾城東支部の構成員らは、本件建物部分に対する分会即抗告人の占有を実力をもって奪ったのであるが、右奪うに至った理由は定かでなく、その合理的事情を窺い知ることはできないのであるが、分会の構成員がすべて相手方安藤運輸の従業員であった者であって、同相手方との間に地位保全等仮処分事件において抗争中であったこと、本件建物部分の所有者である相手方安藤運送と相手方安藤運輸の代表取締役両名がいずれも同一人であること、その他本件記録に現われた一切の事情に照らせば、右相手方両社が国士会及び黎明塾の構成員らをして本件建物部分に対する分会即抗告人の占有を奪わせたものと見るべきであることは、現段階としてやむを得ないものであるというほかない。
そして、記録によれば、抗告人が本件建物部分に対する占有を奪われた状態をこのまま存続させておくときには、抗告人において右分会のために行う組合活動につき著しい損害を被り、その損害を回復し難いことになり得ることが一応認められるから、右建物部分を執行官の保管とし、右分会所属の組合員に限り、右分会の組合活動のために右建物部分を使用することを許す必要があるということができる。
したがって、抗告人の本件仮処分申請は、本件建物部分につき主文1ないし3の限度で理由があり、これを認容すべきであるが、その余は理由がなく、本件構内広場につき仮処分を求める部分はすべて理由がないから、これを却下すべきである。
よって、原決定のうち右と結論を異にする部分は失当であり、本件抗告は一部理由があるから、右の趣旨に従って原決定中の該当部分を変更することとし、申請費用を双方に負担させることとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 杉田洋一 判事 長久保武 加藤一隆)
<以下省略>